2006年09月19日
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コミック リュウ創刊号付録『女立喰師列伝 ケツネコロッケのお銀 パレスチナ死闘篇』を鑑賞する

Written By: トーノZERO連絡先

 いや~、創刊号を買ってしまいました。

 コミック リュウです。

 その目玉の1つが、これです。

 立喰師列伝の外伝短編映画DVD。

女立喰師列伝 ケツネコロッケのお銀 パレスチナ死闘篇

 いや~、本当に押井ファンの期待を思いっきり裏切る楽しい映画で大満足ですよ。これはもう、しったかぶりで押井を語る自称ファンは絶対に楽しませないつもりですね。その皮肉な態度がとても楽しくて好きです。

内容 §

 立喰師列伝と違って、普通の実写映像作品です。

 しかし、映像的な面白さがないと思ったら大間違い。

 いろいろと人を食った映像があって楽しいですね。

現実と虚構が交錯する危うさを堪能できる §

 作品の内容は、パレスチナでケツネコロッケのお銀を見たという情報から、フリーのルポライターがパレスチナに行き、お銀の娘と称する人物から話を聞きます。

 ここで、渡航のための取材費用が出る理由として、お銀の実在が証明できれば学術的に価値があるという話と、発売間近の立喰師列伝DVDの良い宣伝になるという話の2つが提示されます。立喰師列伝は興行的に良くなかった……という話まで、作中で語られます。

 実は、この展開こそ、立喰師列伝という作品を特徴づける多重の虚構性を踏み越えて、虚構性レベルの倒錯という状況まで見える画期的に面白いものです。

 つまりですね。

 本来「立喰師列伝」という映画が公開されたのは現実世界です。

 しかし、立喰師と呼ばれた人々が様々な形で語られていた世界は、虚構の世界です(第1レベルの虚構)

 そして、第1レベル虚構世界の住人達から見て、立喰師とは存在が疑われる人々であり、たいていはフィクション上で語られる存在です。このフィクションが第2レベルの虚構です。

 ここで、もしお銀の実在が証明されると、第2レベルの虚構と、第1レベルの虚構が実は同じであるという結論に至ります。

 ところが、この映画の中では、現実世界と第1レベルの虚構が同じものと見なされています。つまり、立喰師列伝という映画のDVDが発売される世界と、立喰師に関する様々な書物が実在する第1レベルの虚構世界がイコールとして表現されているのです。

 ということは、実はお銀の実在が証明されるということは、現実世界、第1レベル虚構世界、第2レベル虚構世界が同じであるという結論になってしまうのです。

 つまり、現実とフィクションの区別が消失します。

 しかし、これはあり得ない結論です。実際に、現実世界には立喰師に関する本など、押井守関係の著書を除いては存在しないわけですから。

Avalonのポスター §

 虚構と現実の区別が消失し、それどころかあたかも虚構が真の現実であるかのようにリアリティを持つ……といえば、押井守監督作品のAvalonですね。

 作中、Avalonのポスター(作中に出てくる犬の顔のポスター)がさりげなく出てくるのは、このような認識と無関係ではないでしょう、たぶん。

 「女立喰師列伝」は、Avalonの主題の変奏曲と見ても良いと思います。

かくして虚構は虚構として消滅する §

 Avalonのラストシーンで、現実だと思っていた世界から死体がビジュアルエフェクトを伴って消滅するのと同様、この映画でも虚構は虚構として消滅します。

 ここが素晴らしく快感ですね。

 押井さんは良く分かって描いていると思います。

 あたかも虚構と現実がイコールであるかのような幻想を徹底的に描きつつ、最後にあり得ないものはあり得ないとして消滅させます。

 虚構や幻想を愛しつつも、きちんとそれを観客から取り除いた上で映画を終わらせる健全性は、押井守監督の優れた特質でしょう。

 そして、それが取り除かれる瞬間にこそ、最大の快楽があると思います。